専門コラム 第135話 IT化・EC化へ大きく舵を切り出した流通世界。どう未来に繋いでいくか。大手百貨店の決意ある施策事例より。
日本で緊急事態宣言が出された2020年3月13日、日本も世界も社会全体が大きく揺れ、そこから世の中が大きく変わり出したことは、誰もが知るところの現実です。
生活面では、不要不急の外出自粛、県外往来の自粛、ソーシャルディスタンシング、常時マスクの着用、学校閉鎖やオンライン授業の拡大、一律給付金支給の決定、オンライン飲み会・・・。
ビジネスでは、出勤者の調整、テレワークの普及および自宅オフィス化、リモートワーク、ワーケーションの広がり、出張制限、オンライン商談、ZOOM会議の普及・・・。
業界別では特に、ホテル旅館などの観光業、飲食業、テーマパークなどの娯楽業、エンターテイメント業、航空・電車など輸送業、土産物店など実店舗小売業、広告業など、それら業種に納入したり、関係性のある業種も、とてつもなく大きなマイナス影響を受けました。
そんな中、逆に大きく伸びた業種も一方ではありました。
生活でもビジネスでも、人が出ない、動かないという、いわゆるニューノーマル(新常態)となり、”巣ごもり”という状況が生まれたことにより、IT化、EC化とさんざん叫ばれながらもさほど進んでいなかったのが、一気に、いや半ば無理やり???に大きく前進しました。
巣ごもり需要が生み出されたことで、ヤマトなどの宅配業が伸び、ネット通販が全体的にさらなる活況となり、誰もが無料でホームページを作って商品を売ることができるBASEなどのECサービスが大きく利用数を伸ばしました。
テレワークという中からは、ZOOMというオンライン会議システムが一気に普及し、会議のみならずリモート飲み会まで生み出しました。今ではZOOMでのオンライン商談も多く取り入れられてきており、WEBカメラなどの機器、セキュリティを強化するITサービスの利用、自宅とオフィスを繋ぐための機器やITサービスの普及も一気に進みました。
結果、IT関連業種も売上を大きく伸ばし、ますますIT・EC・DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが、大きく加速していっています。
細かく言い出したらキリがないくらいのコロナによる悪い影響がある一方で、IT・EC・DXにおいては、いい影響があったことも事実です。
ではこれからの流通業はどのように進んでいけばいいのか?ひとつの大きな手を打った、ある有名百貨店の事例をご紹介します。
現在その取り組み中ですので、どのような効果を生み出していくのか、生み出したのかが分かるのはこれからですが、とても大きな決意表明とも取れる施策の事例です。
この有名百貨店では、毎年のこの時期、お歳暮カタログを発刊し、店舗催事の利用促進とともに、同時にオンラインショップでのギフト利用も促してきていました。
ですがコロナによって、店舗催事への来店促進もままならない状況。対応する人員確保も困難。加えて沢山の高額商品を買ってくれていた外国人観光客も激減。
有名老舗大手百貨店が、この年末に打った手は?
歳暮カタログからの注文の場合、配送料(1個あたり800円〜1,000円)を別途いただくのですが、オンラインショップでの注文だと全て配送料を無料としたのです。
どのようにシフトしたかの結果はまだ分かりませんが、ギフトであれ自宅用であれ、宅配の配送料というのは消費者が購買決定において、最も気にするところです。
例えば5,000円のものを買うのに、送料が1,000円だったとすると本体に対して20%増になるわけで、これを無料とすれば20%分得した気分にもなります。
事業者は送料無料とすれば当然20%分の利益マイナスとなるので、とてつもなく大きな痛手にはなるのですが、それでもこの百貨店ではオンラインショップへのシフトチェンジを狙って、あえて大量の血を流すことにしたのです。
これは単に今現在の苦境を脱するという短期的な売上確保を狙ったのではなく、中長期視点でオンライン会員を増やすことが大きな目的であることは明白です。
特に今の百貨店は若者離れが顕著で、中心は年配層の顧客。新規は海外からのアウトバウンド需要に頼っていた状況。
アウトバウンドも見込めない今、コロナで身体が危険とされる年配者も店舗に集客できない八方ふさがりの中で打ち出されたのが、先のオンライン購入送料無料の施策だったのです。
施策の上には当然、戦略があります。その戦略とは実店舗だけからの脱却とオンラインシフト=EC化率の引き上げです。もっと大きな戦略・目的はあると思いますが、この百貨店では、脱・百貨店をすでに宣言されています。
旧態依然としたこれまでの百貨店モデルから、百貨店でなくてもいい!まったく新しい買い物体験ができる場をこれから提供していく!
強い決意の表れが、このオンライン送料無料施策に表されていると、私は理解しました。
コロナによって諦めるのではなく、戦うこと、変化することを決めて血を流しながら、これまでの看板を捨ててでもと不退転の決意で歩み進めていく大手老舗企業。目的・未来を見据えるこの取り組みは、単なる施策ではない。
あなたの会社は来年、
どのような目的を持って新たな時代に挑みますか?
どのような未来に向かって走っていきますか?
この年末年始、外出自粛をせざるえなさそうな中、じっくりと考えてみてください。
もちろん私自身も、当社をどう変革させていくか。また、どのようにして今のクライアントを成功させるのかをじっくり考える所存です。
大変な1年でしたが、明るい未来を作っていけるよう、繋げていけるようコロナに向き合いながら、何としても打ち勝ち、日本経済の一翼をお互いに担っていきましょう!
それでは来年もお付き合いくださいますよう、また、どうぞよい新年をお迎えください。