専門コラム 第11話 「欲望を叶えるものにしか、勝機はなし」
2018年春、大手外食産業が続々とネット通販に乗り出してきます。
「築地銀だこ」を運営するホットランドは、冷凍たこ焼きを製造する自社工場ラインを新設。すでに470店舗もあるそうですが、それでも空白地もあり、駅や空港売店での手土産需要も目論んでいます。
「紅虎餃子房」を展開する企業もこの春より本格参入し、讃岐うどんの「丸亀製麺」を運営するトリドールも昨年7月、食品ECを手がける100%出資の子会社(株)バルーンを立ち上げ、12月には一世を風靡した故・鈴木その子氏が立ち上げた美と健康の通販化粧品会社「SONOKO」グループを買収。また、東京のタワーマンションの住居内エントランスには、ネット通販で扱う生鮮商品の実店舗も展開。EC事業全体で2020年に売上100億円を目指すとのこと。
ECが遅れていたと言われる外食産業も、リアル×ネットに本腰を入れてきています。オムニチャネルとは少し違いますがリアル出店には立地的な限界があり、その分EC=ネット通販を成長戦略として社業を伸ばしたいというのが表面化しています。
逆に通販からリアル店舗に広げた企業もあります。代表的なのが、下着通販のピーチ・ジョン、化粧品通販のファンケル、最近ではアパレル通販のドゥ・クラッセといった会社です。他にも多くの通販会社がリアル店舗に挑戦してきましたが、販売チャネル特性や仕組みの違いから、その多くは成功していません。
販売チャネル=戦うフィールドが変われば、そこで求められるニーズ・ウォンツ、購買客層など様々な違いが存在してきますし、どこまでその新しいチャネルを深く洞察し、本気で経営リソースを注ぎこめるかが勝負のポイントです。
前述の「築地銀だこ」は、店舗用とは異なる冷凍たこ焼きの工場ライン新設までして取り組むということに本気度が伺えます。
「銀だこは聞いたことがあるけど、近くに店舗がないので、一度食べてみたい」という消費者の欲求に対して通販でも買える、旅行先で自分用や手土産用として駅や空港で買えるというのは、消費者の欲求を満たすでしょう。そういった理にもかなっており、成功するのではないでしょうか。
欲求という言い方は表現が和らぐので、ここからは「欲望」と表現します。
通販であれ、ギフトの通販であれ、商いにおいて最も大事なワードがこの「欲望」です。
企業の「欲望」は簡単に言うと、売上拡大・利益拡大・事業成長ですが、消費者の「欲望」の本質を捉えた話しを紹介します。
先日の日経新聞の「なやみのとびら」というコーナーに、このような悩みが載っていました。
「子が独立、欲望が止まらない(神奈川県・50代・女性)」この内容記事にまず飛びついたのは、私の妻でした。かなり共感したようです。
その悩みは「子どもたちが独立した後、欲望が止まりません。食べたいものは食べ、買いたいものは買い、行きたい場所に行かなくては気が済まない。贅沢な悩みだと思いますが、心の内では毎日欲望が渦巻き疲れます。エネルギーをボランティアなどに向ける気も起こりません。」
この悩みに対して回答者である筆者(男性の作家さん)は「長い間、子育てお疲れ様でした。20年以上にも渡って頑張ってきましたね。子どもを立派に育て上げても世の親は誰も褒めてもらえないので、僕が代わりに褒めておきます。あなたは本当に良くやった。もう十分です。神様ならきっというでしょう。生きものとして最も大切な世代交代のお役は御免になったと。あなたの子育ての苦労を誰かが肩代わりしてくれましたか。辛い時も一人で耐えるしかなっかたはずです。あとは好きなように生きなはれ。」と、見事な回答をされています。
きっと質問を寄せた方はこの回答記事を見て、涙を流して喜んだでしょう。
日本ではリア充といった言葉もありましたが、まだまだ、好きなことをしている、楽しくしていることに対して、言葉ではいいなあとか羨ましいなあとか言いますが、世の中には大変な人も沢山いるのに・・・私はしたくても出来ないのに・・・といった謳歌している人の足を引っ張るようなダークな部分も含まれていたりします。
質問者の「毎日欲望が渦巻き、疲れます。エネルギーをボランティアなどに向ける気も起こりません。」といった言葉が世間の「闇」を表していますが、一方ではこの筆者が言われているように、日本も時代は急速に変化している中、特に女性を中心に好きなように生きている人も多くなってきているのではないでしょうか。
美味しいものを食べたい、好きなものを買いたい、生きたい場所に旅行したい・・・。今、子育てが終わる50代あたりの世代も大いにその自由を謳歌する時代だと捉えて、通販においても購買の中心ゾーンに置くと、納得して気に入れば少々の高価格でも惜しみなく買うでしょう。
10代、20代の草食世代(絶食世代!?)も結婚し、子供が出来、育て終わると同じような生活環境になりますので、その世代は待つとして。
この欲求=欲望の高い人の購買意欲を満たすためには、販売チャネル拡大以前に、新商品の開発や、既存商品やサービスを磨いておくことが重要です。
あなたの会社の商品やサービスは、欲望を満たすものになっていますか?
販売チャネルの拡大だけに囚われていませんか?