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専門コラム 第126話 こんな今だからこそ。小売における “成長戦略” 見直しのカギは質の高さ。

 先週のコラムでは、当社クライアントからこのようなご相談を受けましたと書きました。

「土産物主体の実店舗が観光も出張も激減する中、雇用も維持しながら新たな事業展開では飲食+物販を考えていますがどう思われますか?」というのがご相談内容。

私からの直接的な回答を先週は書かなかったのですが、このようにお答えしたのでした。

「複数ある店舗のスクラップ&ビルドを行いながら、今伸ばし続けてきているギフトの物販および通販にヒトとカネを集中させ、新しい飲食+物販ではネット顧客としても繋がる “リアル×デジタルの仕組み” を作っていきましょう。」でした。

このクライアントでは、私が指導を始めた2015年よりギフトの通販に力を注いできて、順調に伸ばし続けてきており、今年はさらにコロナからの巣ごもり需要から、自社サイトでは昨対250%、楽天市場店では180%と大きく飛躍してきています。

コロナがあったからでしょ・・・と思われるかもしれませんが、コロナからお店で買われなかった人々がネットで買われているわけということは、お客様の購入デバイスが、実店舗→ネット(スマホ・パソコン・タブレット端末)に、強制的にシフトしてきているのです。

ネット通販におけるお客様にとってのメリットは、

・簡単に多くの商品選択肢や店舗選択肢を得られること。

・全く移動せずに、品定めや注文ができること。

・対面の煩わしさがないこと。

・商品説明を読じっくり読めたり、見れること。

これらをひっくるめて、様々な時間短縮からの「便利さ」に集約されます。

逆にデメリットは、実物を見れないことですが、どんなものかがある程度分かっている商品、ブランドで分かる商品であれば、さほど悩むことはない時代になっています。

要するに、個人情報のセキュリティも含めてネットで買うこと自体、またネット通販に欠かせない宅配便での送付と受け取りが、信用・信頼される時代になったのです。

ネットの「便利さ」をより知った人々が今後定着し、ネット通販のさらなる隆盛を支えていくでしょうし、物販のみならず様々なサービスもネット利用が進み、これまで以上にデジタルシフトが起きていくでしょう。

そんな中、私が前職時代からもよく知っている、加工食品の土産物需要から大きく会社を伸ばされてきた、あるメーカーさんの取り組みの記事が、日経MJに掲載されました。

全国に店舗展開をされていますのでご存知の方も多いかもしれませんが、長野県に本社のある加工食品メーカー、サンクゼールさんです。

私はこの企業を前職時代の約15年前に知ったのですが、当時、卸販売は全くせず、ほとんど地元長野の自社店舗でしか販売していなかったのですが、製品をいたく気に入った当時の私のスタッフが現地まで赴き、卸販売を嫌がる社長を何とか口説き落として、商品採用させていただいたという、思い出深い経緯がありました。

その後、主要都市部にも多店舗を展開され、記事のよると売上高110億円、10年連続の増収だそうで、当初からの洋ブランド「サンクゼール」に加え、新たに加えた和のブランド「久世福商店」の両輪で、大きく長く発展されてきました。

しかし、先の当社クライアント企業と同じ様に、元々の本店では観光客相手のご商売ですので、海外からは皆無、国内からも大幅減と土産物事業はコロナ影響をまともに食らっており、記事では「観光客の土産物需要に頼っていた販売店を閉める一方で、インターネット通販を強化する。」といった内容が書かれていました。

長野県では、善光寺門前、軽井沢、八ヶ岳のような観光地に出店していた店舗を閉める一方で、主要都市各地のショッピングセンターは堅調なため、状況を見ながら新規出店も視野にしているそうで、実店舗のスクラップ&ビルドを進めていかれるようです。

さらに、事業全体としては、観光地にある実店舗閉鎖などを縮小する代わりに、ネット通販に力を注いでいく。記事の見出しにあった「観光向けから贈答用へ」を、コロナ時代、コロナ以降の成長戦略とされたのです。

ショッピングセンター内店舗では、上質な食材を購入したいニーズから堅調ではあるが、対面販売がしずらくなり手渡しでなく、宅配で送る需要がさらに伸びるだろう。質の高い食品の贈答需要は今後強まると見て、閉店店舗のスタッフをネット通販事業に投入し、使い勝手の向上を急ぐとのこと。

バックヤード、通販で言うところのフルフィルメント力の向上に力を入れられる点は、商品そのものの魅力=商品力はすでに十分であるからこそ。

商品発送の迅速化のために、バーコードリーダーとタブレット端末の導入からピッキング作業の効率化、シュリンク包装機の導入から受注後2日以内に出荷できるように徹底され、実店舗とネット通販を融合させる「オムニチャネル」にも取り組みたい考えもあるそうで、ギフトを贈りたい人が実店舗を訪れたときは、店のタブレット端末で注文してもらい、自社配送センターから商品発送する仕組み。

この実現によって、各店舗での商品の箱詰め、包装に人手が取られなくなり、レジの混雑から店内が ”密” になることも避けられる。さらに将来はアプリも開発し、「アプリから登録された送付先にギフトを送れるようにしたい」というサンクゼールさんの言葉で記事は締められていました。

実際つい最近、私は友人がオープンしたカフェの開店祝いをこのサンクゼールさんの店舗で購入を決め、様々な商品を組み合わせて箱詰めをお願いしたのですが、梱包・包装が出来上がるまで30分ほど掛かるため、順番待ちのカードを渡されました。しばらくお店を離れずに見ていると、店員さんの大半が箱詰め作業に追われていて、贈答ではないお客さんまでがレジで待たされている光景を目にしていました。

ギフトのネット通販、オムニチャネルに深く取り組むことによって、スタッフにとってもお客様にとっても良くなることが増えるのだろう。日経MJの記事を読んで、そう実感しました。

事業目線で言いますと、

・観光地需要からの脱却

・今後手渡しでなく、宅配で送る需要がさらに伸びるだろう

・質の高い食品の贈答需要は今後強まると見て

実際に起きていることを起点に、今後の見通し、仮説を立て、その考えを信じ、今後の成長戦略の軸を「ギフトのネット通販強化」とされたのです。

もちろん、いつコロナが収束して観光が戻るかも分からない。いや収束しても、元に戻るのかは分からない・・・。優秀な学者でも政治家でも、どんな優れたマーケッターも誰も予測ができない未来。コロナ前までのデータや計算からの予測が成り立たない時代。

だからこそ、マーケット全体を俯瞰し、会社全体の課題解決も含めて、経営者および経営陣は机上の計算ではなく現場視点の仮説を立てた判断から、コロナ時代、コロナ後の成長戦略を見直さないといけないのです。

今、実店舗を中心に小売業や飲食業では盛んにEC強化=ネット通販強化が叫ばれています。ですが、企業、お店ごとに現状の課題点は違うはずです。

前述のサンクゼールさんのように、お客様からの商品評価はすでに優れている企業は、フルィルメント力の向上からサービスの向上に繋げられる。

一方で、まだ商品力、商品評価が定まっていない企業、お店ではまず、商品力を高めなければなりません。

何をおいても起点は、魅力ある商品からでしかないのですから。

さらにギフトでは、商品の質の高さも求められます。

高い価値を感じていただけてこそ、高いお金を払ってでもギフトとして利用してもらえた結果、粗利が高くなり、利益が生まれ、次の戦略への投資へと結び付けていけるのです。

あなたの会社、お店では、今どこに課題を抱えられていますか?

ネット通販などのEC強化、業務のIT化、DX(デジタルトランスフォーメーション)も今の時代は重要ですが、その前に取り組むべきこともあるのではないでしょうか。