専門コラム 第43話 「店舗はお客様の顔が見える、通販はお客様の”心”が見える」
私が通販会社に勤務していた頃、とても生真面目で優秀な部下がこう言って会社を去りました。
「通販はお客様のお顔が見えません。私はお客様と直接触れ合う仕事に就きたいです。」
彼はその後、介護ビジネスの世界へ向かいました。とても気持ちが優しく、責任感が強かった彼は今も自分の信念に基づいて、生き生きと仕事をしているんだろうなあと思っています。
当時、通販会社で行なっていた事業のうちの一つが健康食品のリピート通販でした。
ネットのない時代でしたので、まず集客は新聞折込チラシで獲得していました。どうしても怪しまれてしまう健康食品ですからまず戦略として、いきなりの注文ダイヤルは掲載せず、まず安心ただく形で相談ダイヤルとして「専門のカウンセラーがあなたのお悩みにお答えします」と相談用フリーダイヤルを掲載、事前に専門知識をレクチャーして学んでいただいた、外注の電話代行会社で受けていただきました。そこでトークの最後に商品を紹介、興味のある方だけ連絡先を伺って後ほど会社からお電話(アウトバウンド)してご注文を受けていました。
当時、私の部門では女性の専門オペレーターを6名入れていました。年齢は20代~50代まで満遍なく揃えていました。お客様との相性に合わせていくためです。この健康食品でのリピート通販事業は電話対応が一番の肝でした。一度、相談でお電話いただき、注文時にもお電話でお話ししているので、その後もほとんど電話での対応になります。何度か同じお客様からお電話をいただくうちに、中には「◯◯さん、いますか?」と名指しでご指名が掛かってきます。通販の電話対応をされている会社であれば、このようなご経験もおありではないでしょうか。
名指しでお電話いただくような方のほとんどは、購入頻度も購入金額も多いVIP顧客です。
私が常に指示していたのは、VIP客かどうかに関わらず「お客様が望むならできるだけ長く話してください」でした。たとえ回線が一時的に不足してもです。オペレーターの中には、フリーダイヤル料金が勿体無いのではと心配してくれる人もいたりしたのですがそのコストよりも、お客様がお電話で安心と満足を得て、その後の注文に繋がってくれることの方が計り知れないくらいに大きいことが、通話時間とLTV分析との相関データで実証できていたのです。
このように通販では、どのお客様からいつ電話をいただき、どのオペレーターと何分、どんな内容のお話しをし、何を注文し、その後の注文状況がどうなったかなど、様々な履歴から分析をし、そこからより鮮明かつ効果的な打ち手を引き出すことが可能になります。
一方、店舗ではどうでしょう。今でこそ、会員カードなどの普及で、顧客の購買頻度や購買属性を掴むことがある程度可能になってきましたが、多くはまだまだです。EC・ネット通販では、検索時点から全ての履歴が取得でき、amazonに代表されるようなレコメンド機能(他にもオススメ商品を出す)や、ネット広告ではターゲティング広告(追っかけ広告、狙う広告)なんかもありますね。行動が読み取られている訳です。
通販は今も昔も顧客リストが最も重要です。私の元部下が言った「通販はお客様の顔が見えません。」は、確かにそうです。しかし、お客様の心は、通販の方が店舗よりもより明確に見えるのです。しかもその記憶はデータであるため、消えないのです。
しっかりとお客様対応や分析を行なって、痒い所に手が届くような施策を実行していれば、お客様にも通販の方が、心を通わせることができる・・・このことは通販だからこそ可能にできます。お互いにリアルに顔が見えない分、夢の世界で繋がれるとも言えます。
ネット、ECではamazon、楽天などの大手モールが巨大化し、小さな会社やお店でも簡単に出品してネット通販ビジネスが出来る時代になりました。しかし、これらモールで買っていただいたお客様はモールのルール上、自社の顧客リストには決してなりません。お客様の顔が見えないどころか心も見えない、モール上の施策はできても、お客様ごとの施策は打てない。1億くらいの規模は何とか達成できても、モール出店だけで5億、10億規模の事業までいく会社はごく少数です。
通販事業を大きくするために、大きくしなくとも長きに渡って継続するためには、自社だけが活用できる「心が見える顧客リスト」が必要です。
あなたの会社の通販は、自社顧客リストを重視されていますか?
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