専門コラム 第174話 経営戦略の中心にECを据える企業が増えている。が、社長は「本当の意味でEC事業を理解している?」
“モール撤退、自力でEC” ”モール撤退から売上15倍に拡大”
これは12月6日月曜の日経MJ最終面にあったECの事例記事からです。ある北海道の海産物を取り扱う企業が、自力でECを切り開いて成功している・・・という内容でした。
ネット通販=ECに早くから取り組まれている当社のクライアント企業でも、徐々にではありますが、これまで販売に力を入れていた楽天市場店やYahoo店などのモール販売、またAmazonでの出品などから自社サイト=自社ECへと舵を切り出していて、売上的には多少減らしても、残る利益を拡大されてきている企業が増えてきています。
今に限らず、コロナ禍以前からも大手百貨店や大手流通でさえ「これからの成長戦略の核はECだ!」と声高に叫び、実際にECへの大きな投資も行い、コロナ禍での巣ごもり需要拡大によってその方針は小売業をはじめ、メーカーでも商社でも、業種業態を問わず、海外への越境ECも含めて、各企業においてどんどん加速しています。
しかし『本当の意味での理解』をしてECに取り組まれているか?
色々な経営者の方からご相談をいただく中で、このようなことを聞くことも多々あります。
「楽天、Amazonに出して、いち早くECで成果を上げたいです!」
はやる気持ちは決して悪くはないのですが、これでは事業として長続きできない明確な理由が大きく2つあります。このことは自著にも書かせていただいていますし、セミナー現場でも、当コラムでも以前からよく述べていることです。
まず、事業として長続きできない明確な理由の1番目。
楽天やAmazonで売上を上げても決して自社の顧客にはならないという、モール出店だけではEC事業において決定的なデメリットであること。
そこに加え、大手のECモールでは、大量の出店者と出品数がひしめき合い、価格競争、ポイント付け競争は激しく、モール内での宣伝広告費も常に多額に掛け続けなければ、上位には表示されない・・・。表示されても売れるかどうかは別問題・・・。
20年もの間、楽天に出店を続け、3億円の売上がある北海道物産を販売する旧知のS社長からこんな話を聞かされたことがあります。
「早い時期から楽天に取り組んできて、参入から10年でようやく単独事業として黒字転換できました。しかし、黒字になったといっても最近の10年もほぼプラスマイナスゼロですので、何をやってきたのやら・・・と思うこともあるのですが。」
「楽天で売れているオリジナル商品が自社製造で工場を回すためにも、ここまで売上が大きくなったので止めるに止められないというのが正直なところなんです。」
私はS社長に「その間に自社ECはどうされてたのですか?」
「楽天を回すのに精一杯で、自社ECにはまったく手をつけてこなかったというか、そこまで手が回らなかったというか。」
ではここで、話を先の日経MJに記事掲載された、同じ北海道物産を販売されている会社の事例に戻しましょう。この会社では逆に、売上の7割までも占めていた楽天などのモール出店を一切やめて、自社ECのみに切り替えられて成功されたとありました。
なぜモール出店をやめて成功したのか?も書かれていました。
「ECを担当していた役員の方がネット通販の利益を分析したところ、モールではほとんど利益が出ていないことを把握。一方、自社のネットショップでは一定の利益率を確保している。そこから会社を説き伏せ、2008年にモール出店から撤退。アクセス解析などを独自に勉強し、ウェブ解析士の資格も取得。少しづつ新規顧客を増やし、3年目にようやく運営が軌道に乗り始めた。」
「現在、自社の通販サイトの売上は大手モールを撤退した当時と比較して15倍に拡大。着実に利益も出している。」
さらにこのEC担当役員の方が語られていた言葉に、とても重要な、でも当たり前とも言える真実の言葉がありました。
「商売は価格を安くして売上を伸ばすものではなく、お客様を大切にして売上を伸ばすものと思っています。」
当社にも初期のご相談では「いち早くEC事業を立ち上げて事業の柱を作りたい!」だったり「自社ECだけではすぐに集客できないことは分かりきっているから、すでにたくさん集客がある大手モールに出して、早く売上を作りたい!」と、おっしゃられる社長は多いです。
経営において、売上利益を出し続けること、成長を続けること、安定させることはどの企業でも当たり前の大命題です。しかし、ネット通販=ECのようにバーチャル空間のようなイメージの商売になった瞬間、リアル店舗展開や卸販売が主力であったり、古くからご商売をされている企業ほど、ECはどこか他者任せ(モール出店していればみたいな)だったり、EC事業を立ち上げても、担当者がそれまでの本業と兼務であることも圧倒的に多いのが事実です。
このことが事業として長続きしない、2つ目の大きな理由なのです。
ECでのネットショップはなぜショップ=お店と言われるのか?を、経営者の方は特にお考えいただきたいです。
リアルの店舗に立つスタッフが、外に営業に出て行ったりしますか?
リアルの店舗に立つスタッフが、横で物流の作業をしていますか?
リアルの店舗に立つスタッフが、裏で月末の事務会計に追われていますか?
リアル店舗だとNOですよね。きっと。
しかも、懸命に働く店長や店舗スタッフは常日頃、このように考えているでしょう。
「もっとお客さまに喜んでいただけるサービスはないか?」
「どんな魅力ある商品なら買っていただけるだろうか?」
「どんな品揃えだと幅広くお使いいただけるだろうか?」」
「商品の質を落とさず、コストを安く抑える方法はないか?」などなど。
本気でECで事業の大きな柱を立てたいのなら、本気でネット通販に取り組む責任者や担当者が必要ですが、その前にもっと必要なのは、社長自身、会社自身がネットショップも自社の『愛すべき立派な直営店舗なのだ』という理解と認識を強く持っていただきたいのです。
このことが、今後も競合ひしめき、新規参入も益々増えるEC事業成功への第一歩なのです。
社長の会社のEC事業は、大手モール出店だけに目がいっていませんか?
利益を上げやすい自社ECのために、専任・専門の担当者はいらっしゃいますか?