専門コラム 第171話 新業態「売らないお店」は、売り手よし、買い手よし、世間よしの優れた仕組み。これから増える「食」の体験型販売とは?
今日の日経MJ第5面の見出し記事から。
“ベータ「体験型店舗」食に拡大。渋谷に実験店、扱い3割に。”
このベータ(b8ta)は、アメリカ・シリコンバレー発の体験型施設を運営している企業で、日本では丸井グループが間接出資するベータ・ジャパンになりますが、記事によるとこれまで家電や化粧品が中心だったが、コロナ下で家で食を充実させている人が増え、試食してから買いたいという需要に応えるため、11月15日渋谷に開く新店舗にカフェスペースを設け、食品の扱いを3割にするという・・・。
記事の中で、丸井グループの代表が語ったことは「商業施設が全国的に増えており、販売を主目的とする店舗は飽和するだろう」「今後新業態の店が必要となる中で『売らないお店』は増える」でした。
このベータのような「売らないお店」は、その場で商品を売り込むことを目的とはしておらず、家電製品を手に取って使ってみたり、化粧品を試してみたりということが主目的の店舗です。商品を気に入れば、その場で買うことも出来ますが、店員さんは決して売り込んできたりせず、あくまでも商品説明のサポートだけをする形です。
「それなら出品者は儲からないだろう?」ではなく、店舗に設置しているカメラやタブレット通して「顧客の年齢層や性別」「商品に関心を持つ顧客の数」「販売員のコメントなどの定性的なデータ」を収集し、月額出店料(サブスク型)を支払い、出店した企業にすべて情報提供している、リアルなマーケティング調査が得られることが大きな利点で、さらにそこから本商品の購入に繋げていくことが、最終的な目的です。
このビジネスモデルでベータ側の営利は、出店者からの出店料です、よって、商品の売上には全く左右されず、出品側はお客さまのリアルな情報を手にすることができ、そこから売上や、得た情報から手堅い商品改善の投資にも繋げられる。
一方、客側(ベータには購買目的で来ていないため消費者ではないですね)は売り込まれることもなく、自由に気になったものを試してから買う・買わないを決められる。
まさに ”三方よし=売り手よし、買い手よし、世間よし”を実現した、優れた仕組みです。
そして、先に書いた11月15日からのベータ「食にも拡大」がすごく大きなインパクトを出しています。なぜなら、デパ地下や、旅先の土産店などでの購入前の試食は、ほとんどの人が経験されていると思います。
身内の話で恐縮ですが、私の妻の場合 ”デパ地下で試食をする=それを買うことが大前提” な人です。だから試食を店員さんから勧められても簡単にはしません。「試食ばっかりしすぎてお腹がいっぱい」という人より、私の妻のように試食でさえもプレッシャーが掛かる人は、結構な割合で多いのではないでしょうか。
ベータの新店舗のように「試食だけしていただけるお店です」だったらどうでしょうか?
購入するかしないかを決して迫られることなく、本当に気に入った時だけ、その場で買うも良し、後でネット注文するも良しなのです。
家電や化粧品の体験よりも、食品は単価的、商品特性的にも美味しいか美味しくないかという、単純で人間の本能的な部分に訴えることが大きいので試食体験から購買行動までのスピードはより早く繋がるものだと、推測しています。だから体験型店舗の「食にも拡大」は、ものすごくインパクトがあったのです。
今日の日経MJ、このベータの記事の隣には、百貨店各社、お歳暮商戦開始の記事もありました。
・環境や健康に配慮した商品を増やした
・ECの比率を高めようとしている
・自分たちで自宅で食べられる商品を増やした
これらはコロナ禍で、世の中の流れや消費者心理が変わった状況に対応するもので、マーチャンダイジングを行う上で当然のことと思いましたが最も着目したのは、別のことでした。
・動画を使った販促に注力(三越伊勢丹)
2021年夏の中元商戦でバイヤーがお薦めする「太鼓判100」の約40商品を動画で紹介、商品の特徴や生産者の思いわかりやすく伝わり「売上が2桁伸びた」そうで、今回の歳暮では対象の100商品全てで動画コンテンツを用意したとのこと。
この取り組みは、コロナ云々はまったく関係なく、先のベータの試食に近いもので、日ごろお世話になっておる大切な人に例えば、今年は「直接会っての食事も出来なかったし、お肉好きな人だから10,000円のすきやき用の和牛肉を贈って喜んでもらおう」と思っても、さすがにデパートの催事場で和牛すきやきを試食することは出来ませんし、提供もされていません。
単に和牛ということだけでなく動画での紹介で、
・生産者が自らどのような育て方をしているのか?
・どのように食せばもっと美味しく食べられるのか?
・お肉のプロならではの解説で、解凍方法や保管方法のアドバイスがあったり
このような情報が購入前に得られたら、贈った人にもこの情報を伝えることができ、まさにモノだけでなく「ストーリーを贈る、体験を贈る」というさらに価値の高い贈りものになりますし、贈る側も安心して購入を決められるでしょう。
百貨店のようにたくさんの商品を扱っている場合、たくさんの動画コンテンツを作らなくてはいけないので時間・労力・コストが相当に掛かりますが中小企業でも、まずは看板商品1品だけから取り組んで、試す価値は大いにあるでしょう。
もう一つ紹介します。2019年コロナ禍前に出版されたビジネス書のベストセラーから。タイトルは『2025年、人は「買い物」をしなくなる』という、あるEC支援会社の方が出された本があります。人によって捉え方は変わるので、中身の詳細については省かせていただきますが、その本の最終章冒頭にはこう書かれています。
・1日かけて出かけていた百貨店
・1時間かけて出かけていたスーパー
・10分程度の外出で済むコンビニエンスストア
・1分程度で済むインターネットショッピング
もちろん買い物を全くしないわけではなく、買い物におけるプロセスが変わったり、そのプロセスのバランスが、現代やこれからの生活では消費行動や購買行動が変化するということです。
「売らないお店」「人は買い物をしなくなる」
これからの時代でのサービス・商品・売り方・伝え方はどうあるべきか?
ギフト、贈り物、プレゼントのビジネスはどのように形を変えていくべきか?
当社では今後も世の中の流れ、動きを見て、今の消費者心理、顧客心理を推察しながら、クライアント企業が迷うことなく邁進できるようにしていきますし、内容を大きく刷新した11月25日、12月7日に行う下記の最新オンラインセミナーでも、しっかりお伝えします。
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