専門コラム 第132話 時代に置き去りにされていく会社と、時代の変化から成功していく会社。(イノベーター理論より)
「今はまだ順調なこの事業ですが、今までとは違う形へも踏み出さないと、先には不安しかありません。次のフェーズへと進めたいのはヤマヤマなのですが・・・。」
「社内で議論をしてもなかなか前に進まなくて。そこで先生のご意見をぜひ頂戴したく、こうして今日の会議にご参加いただきました。」
先週のある日、当社クライアントの会議で、社長が冒頭におっしゃられた言葉です。
コンサルティング中で守秘義務がありますので、何の事業かは申し上げられませんが、この事業領域において開始以来10年以上に渡って、国内No1の取扱高を誇っている事業です。
だからなのか事業に携わられている社員さん達には危機感がイマイチ薄く、社長だけが将来、未来に向かっては不安しかない・・・とおっしゃられるのです。
経営者と雇用される側ではその考え方に180度、正反対の違いが出ている典型的事例です。
社員さん達は口々では「新たな方策を見つけて走り出します!」と毎回の会議では言うもののの、この事業の売上利益は順調ではあるため、本気で危機感を持っているわけではなく、会議後はよしやろう!と思っていても、翌日からはこれまで通りの業務に追われて、結局新しい方策とやらは、何年もの間、どこかへ置き去りになってしまっていたのです。
マネジメントの問題では?と思う節もあるにはありますが、社員数の少ない中小企業が簡単に優れた人材を確保したり、充実した社員教育をしたりもできず、社長自らもプレーイングマネージャーとしてやらざる得ない状況では、致し方ない側面もあります。
社長が言っている今までと違う形・・・は、大きく言ってどこの部分なのか、これには2つあると会議に参加していた私はそう見ていました。
違う販路なのか、違う商品なのか。この2つです。
そこで、私はこうお答えしました。
「取扱高No1として築き上げてきた商品、販路を否定でなく”進化”させることで、既存販路の積み上げ・新規販路の拡大・新規顧客獲得を、一石三鳥で狙っていきましょう。」
維持・継続でもなく、ちょっとした小手先のブラッシュアップでもなく、全くの新しい方策でもなく、この会社、この事業にとっては ”進化” が必要だと直感したからでした。
具体的にこの事業には「リブランディング」が必要だと、私はその答えを導き出しました。
ブランディングとは新たにつくるもの、リブランディングでは、既存の良さはしっかり継承しつつも、さらなる価値の積み上げを行うものと、私は定義しています。
必要であれば新たな商品を投入するかもしれませんし、既存商品のリニューアルからの引き上げを行うかもしれませんが、いずれにしても一般流通がメインだったこの事業をECを駆使した、これまで導入してこなかったギフトやあまり力を注ぎ込めていなかったネット通販にも力を入れて近い将来や、未来にも向けたブランド戦略を用いていくことに決定したのです。
私がその会議で事前に準備した資料とともにこのようなお話をした時、社長のみならず、社員さん達の目つきも輝きを増し、未来への夢が広がった瞬間でした。
もちろん、ここからは当社がこの事業や人材のポテンシャルを最大限に引き出し、ノウハウも提供しながらしっかりとサポートしていくのですが、現在のコロナ禍からの世の中の急速な変化、動きに対し、事業が順調であるにもかかわらず、大いなる危機感を抱いて次なる一手を繰り出したい・・・と、クライアント社長が強く思って具体的に動き出すことを決めたのが、何よりも大きなことでした。
リブランディングはそれなりにコストも掛かりますし、社員さん達もこれまで通りの業務をこなしておけばいい・・・という訳ではなくなりますので、当然ここから大変にはなります。
しかし、それ以上に劇的に販売チャネルも商品も生まれ変わるであろうことが、ワクワク感でしかないのです。
さて、話は少し変わりますがマーケティング用語でよく用いられる「イノベーター理論」をご存知でしょうか。
マーケティングに詳しい方はもちろん、なんとなく聞いたことはあるという方も多いかもしれませんが、以下がイノベーター理論の一般的な図表になります。
※ 図の採用者数は、下側のどのポジションを何%の人が採用しているか?です。
今すでに ”イノベーター” のみならず、”アーリーアダプター” と言われる時代の動きや読みに先鋭的な人たちや企業は、コロナによって変わり出した世の中に対して、すでに策を打ち、今時点ではもう、その後ろの ”アーリーマジョリティ” がどんどんと参入している段階に入っていると言えるでしょう。
”イノベーター” ”アーリーアダプター” といった、それら先鋭的な人々や企業の動きを見て、成功したところだけを真似するのが ”レイトマジョリティー” です。(レイトマジョリティーは、決して失敗をしたくない人達・・・と言えます)
あなたの会社が ”レイトマジョリティー” や”ラガード”では、その世界は競争がすでに激化していることを覚悟しなければなりませんし、先行者利益もすでになくなっている状態と言えます。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
私が語らずともな有名な中国のことわざで恐縮なのですが、危険を犯さなければ大きな成果は得られないという意味でこの逆は「石橋を叩いて渡る」です。
「石橋を叩いて渡る」のが”レイトマジョリティー” や”ラガード”と言われるグループです。
英語圏にも「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と同じような意味のことわざで「No Pain, No Gain」というのがあります。痛みなくして成果は得られない・・・です。
昨年のラグビーW杯を観られた方は多かったかと思いますが、日本人選手が大柄で屈強な外国人選手に臆することなく、恐れずにタックルしていく姿がたくさんありました。
ラグビーでは相手陣地に入り込み、前に進めることをゲイン(Gain)すると言います。まさに痛みなくして成功なし!を体現しているスポーツがラグビーです。
それにもう一つ「No Fun, No Gain」もしっかり置いておくことが私の考えでもあります。
楽しめなければ、成果は得られない!です。
戦国時代や戦時中のような遥か昔は、半ば強制的にトップダウンが行われていたかもしれませんが、経営には痛みも必要、楽しみも同時に必要。これが現代の改革です。
社長も社員も生き生きと、リスクを伴いながらもワクワクしながら事業をより良き方向に、成功への道筋を立てて進んでいく。
そして、あまりコロコロと変えて欲しくないのがヴィジョン(理念)であり、一方で経営や事業戦略では時代を注視し、柔軟に変化に対応する姿勢を打ち出し、実行する。
コロナ禍から急速に世の中が否応なく変化している今、
あなたの会社は、夢と決意を持ってアーリーマジョリティ以前を選択しますか?
石橋を叩くが如く、眺めてから動きだすレイトマジョリティー以降を選択しますか?