専門コラム 第79話 大事なはずの顧客をモールに奪われている現実をどう思うか?
9月13日、日経新聞にこんな見出しが踊りました。
「企業、ネット通販に軸足」「キリンや資生堂、通販サイト素通り」
「SNSで顧客に直接発信」「楽天やAmazonは警戒」
当コラムでも何度か取り上げているアメリカからのネット通販新潮流「D to C」(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)を、日本の大手メーカーも本腰を入れてきたという記事です。
大手モールには出店せず、メーカーが直接自社サイトからだけでネット通販を行うというものです。
私はこの記事が出た13日、東京ビッグサイトで開催されていた「フードeコマース」という展示会場で組まれた無料セミナーに、講師として招かれて登壇していました。
私のセミナータイトルは「ギフト10兆円市場に、売れるギフト商品開発で切り拓く!」。
30分の短い時間でしたので、すべてをお伝えすることは出来ませんでしたが、聴講者の方々にお話しをした中でひとつ大事なことして、こんなことをお伝えしました。
「今現在、楽天やAmazonなど大手モールショップで懸命に売られているのであれば、そこでの広告費や諸経費を、自社サイトのために全て回してください。」と。
何人かの方が、えっ!?という表情で私の方を見られたのが分かりました。
自社サイトでなく、楽天などの大手モールではまずお客様へのサービス対応など限界があります。出店されていればよくお分かりと思いますが、向こうの仕組みやルールに合わせざるを得ない部分が多いからです。
全出店者が、同じプラットフォームを利用しているのですから当然のことではあります。
自家需要向けのネット通販であれば、サービス対応といってもせいぜい配達日時指定やおまとめ配送くらいでしょう。
これがギフト向けとなると、メッセージカードや熨斗の有無、名入れ、包装紙、ラッピング、手提げ袋などの選択、写真データをカードに反映など、商品そのもの以外のお客様要望が多数出てきます。
もちろんモールの中で対応出来ることもありますが、設定が難しかったり、お客様にとって分かりずらかったりするような持っていき方をしなければならない場合もあります。
百歩譲って、そういった対応がモール内でできたとしても、さらに深刻な問題があります。
それは通販経営にとって最も痛い「顧客がモール側に属している」ことです。
すなわち、いくら自社の商品をモールでお買い上げいただいても、よほど他に無い魅力ある独自商品でない限りは、お客様はポイントなどのメリットを享受できるモールだから買うというお客様であり、出店者は常に新しいお客様をモール内での広告費を毎度掛けて、捉えにいかなければなりません。
いつまでもリピート購入を即すための、CRM(カスタマーリレーションマネジメント)戦術が使えないのです。
通販ビジネスは、自家用でもギフトでも、ネットでも紙媒体でも単純に考えれば単純です。
いかに効率よく新規客を捉え(CPO)、リピート購入を促進し(CRM)、年間どれだけ沢山買っていただけるか(LTV)。細かいことはあれど、この3つに尽きると言えます。
ですが、モールに出店しているだけ、また自社サイトの売上比率が低すぎるのであれば、この構図は決して描けません。イコール、よほどの商品力と価格競争力がないと、事業としては成り立たないのです。
先に挙げた日経記事にある、キリン、資生堂もですが、メルセデス・ベンツも日本国内ネット通販限定販売の車種が売られ出したりしています。
彼らは顧客の拡大、売上拡大策というより、ブランドへの高いロイヤリティーを持つファン作りが、DtoCでの最大の目的であると、私は思っています。
有名で誰もが知っている大企業ブランドだから集客のための広告も潤沢にできるし、そうしてるんでしょ?
ではなく、中小企業や小さなメーカー、生産者、お店こそ自社でキメ細やかなサービスを提供したり、より商品に対する熱い想いや、販売者や製造者の顔が見えたりといったことをしっかり伝え、顧客→ファン化へと繋げてほしいので、先のセミナー登壇時にお伝えしたのです。
自社だけで売上が高いレベルで上がる仕組みを構築するのはもちろん大変なことですが、よく考えてみてください。
何よりも事業繁栄での目的として大事なのは、ただ一つです。
会社やお店、自社商品やサービスを愛してくれるファンを1人でも多く生み出すか。
そして、ギフト通販はビジネス手法ですが、お客様からは大切な人へ贈る”コト”です。
よりキメ細かいことの積み重ねがあって、初めてお客様から沢山の利益貢献をしていただけるビジネス、組織、販売体制へと育っていきます。
あなたの会社やお店が、ネットモール出店での経費増で苦しんでいるのなら、自社で直接お客様と繋がることが出来る方へ徐々にでもいいので、シフトさせていってください。